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母の着物

    洋服に変えて思い出作り
 母の着物が洋服に変身した。汚れるのがもったいなく、まだ袖を通していないベストとスカートに加え、今、ブラウスが完成した。
 青春時代は戦火に追われ、戦後のめざましい発展を見ることなく30歳で逝った母の残した着物。着物好きな私はその中の何枚かは袖を通した。しかし、洗い張りに出したままの着物もあり、長い間、たんすの中で眠ったままだったのを洋服に仕立てたのだ。
 大切にしている写真がある。母と5歳の私、2歳の妹が目いっぱいおめかししているお正月のスナップ。母の着物には大輪の牡丹が咲き誇り、皆の顔は幸せに満ちあふれている。
 ブラウスを着た。藍地にえんじの牡丹が意外に新鮮。軽やかで、体にしっとりとなじむ。母の懐もこんなに優しかったのだろうか。「健康が欲しい。娘たちの成長を見守りたい」と、母の叫びが聞こえたような気がした。
 お母さん、一緒に出かけよう。お花見や美術館、やり残したことを一緒にしようね。母の服を着て、いっぱい思い出を作ろうと思う。

            2002年  6月 3日   朝日新聞  声   掲載

by abeliam | 2008-12-11 11:37 | Trackback | Comments(0)