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エッセイ

 事務員をしていたころ、契約書を自筆で書き、そろばん片手に帳簿をつけていた。世にパソコンが普及しても無縁だった。右手中指の丸くて硬いペンだこはひそかに私の自慢だった。
 仕事を辞め、パソコンを始めた。表計算ソフトだと、読みやすいきれいな表が瞬時に完成、そろばんは無用。ワープロソフトを使えばポストカードや名刺が思い通りに作成できる。写真の編集も楽しい。すっかりはまってしまった。
 漢字忘れは加速、気がつけばペンダコが消えていた。長年連れ添った自分の一部が欠けてしまうなんて、少々感傷的にはなる。さすりながら思う。「時代の流れには勝てないなあ」と。今後ますますパソコンが生活に導入されそうだが、機を見て慣れ親しんでおくに越したことはない。目薬をさしてまた、パソコンを開く。

          2004 3 30  読売新聞  気流 掲載

by abeliam | 2009-03-02 16:16 | Trackback | Comments(0)